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大学野球

MAX150キロ超のドラ1候補左腕、細野晴希(東洋大)が向き合う“東都の修羅場”【神宮を沸かせる男たち③】

矢崎良一

2023.06.23

 細野は今年も含め3年連続して春のシーズンの入れ替え戦を戦っている。2年前は、立正大、日大と3チームによる変則開催。初戦、2部優勝の日大戦に先発した細野は、1-0の2回裏、エラーで出した走者を置いて逆転2ランを打たれる。その後は失点を許さなかったが、味方打線が日大の先発赤星優志(巨人)に封じられ1-2で惜敗。翌日の立正大戦も連勝した日大が1部昇格を果たす。東洋大はまさかの2部降格。たった一球の失投で奈落の底に落ちたことになる。「あの時は入れ替え戦の重さが全然わかっていなくて、ホームランも風で入った当たりだったし『なんで僕のせいにしてるんだ?』くらいの感覚だったんです」と細野は本音を口にする。
 
 3年生になった昨年春は、1部復帰を懸けて中大との一騎打ち。初戦は8-4で先勝。先発した細野は61/3回を投げ勝ち投手となる。続く2戦目を落とし、1勝1敗で迎えた勝負の第3戦。再び先発した細野は、中盤まで完璧なピッチングを見せる。7回まで2安打6奪三振の完封ペース。自己最速となる155キロもマークした。ところが、ここで突然の降板。そして1-0で迎えた9回裏、東洋大はリリーフ陣がリードを守り切れずに悪夢のサヨナラ負け。手中にしかけた1部復帰を掴み損ねる。当然、細野が完投していたら、という声が挙がる。

 じつはこの試合、細野は自ら監督に交代を願い出ていた。噂話に聞いた他大学の監督は、「大事な試合で、エースピッチャーなら最後まで投げきりたいと思わないのか?」と首を傾げていた。本人に事情を聞くと、意外な話が返ってきた。

 この時期、チーム内で咳が流行していた。細野も入れ替え戦を控え、咳き込むようになった。入念にコロナの検査を行ったが感染の疑いはない。第1戦は、微熱によるだるさを感じながらの登板で、万全とはほど遠い状態だったが、要所を締める投球でなんとか勝ちを手にした。2日後の第3戦も体調は良化せず、試合前には「6回まで」の予定だった。それで立ち上がりから飛ばした結果が、あの完璧な投球だった。5回を投げ終えたあたりから頭がクラクラして、「目の前に銀色のモヤモヤが見えていた」と言う。それでもあまりの好投に「もう1イニング」となり、7回も抑えた。ただ、スピードガンの球速は変わらないが、球威が落ちていることを自覚していた。今の自分のボールと、この日の相手打線の手応えを考え、「僕が投げるよりもリリーフで行ったほうがいいと思います」と監督に伝えた。

「無理して行って打たれるほうが無責任だと思ったんです。リーグ戦中も自分で『行けます』と言って続投し、失点した試合がありました。さすがに入れ替え戦では、そういうわけにはいかないですから」

 細野はここでの自分の判断については、間違っていなかったという思いが今もある。ただ、チームが負けたことの責任は受け止めている。

 この春から新たに就任した井上大監督は、就任後の個人面談で、そんな細野に厳しい言葉を投げかけた。これまでコーチとして見てきた細野に対して、思うところがあった。「僕はコーチの時は、彼を信用していなかった。でもこれからは、信用しなきゃいけない、信用したい。そういうピッチャーになってもらわなきゃ困るんで、僕は最初に全部言ったんです」と井上はそのときの感情を口にする。

「みんなが言わないから俺が言ってやる。俺はベンチで見てるけど、お前が投げると3倍疲れるんだ。たぶんみんなそう思ってるよ。お前が投げた時、野手がみんな打たねえだろ。いつも自分のことばかりやってるから、周りが勝たせてくれないんだ。もっとチームを背負ってやれ。お前が個人練習をよくやってることは、見ているからわかる。でもお前には立場があるだろ。全体練習の中で、その姿勢を見せろよ。それがエースの姿だろう。お前が投げて負けても仕方がないと思われるような、そんな行動をしてみろ」

 容赦ない井上監督の言葉だが、細野は素直に聞いていた。

「話すまで、監督の考えていることや、自分がチームの中でどんなことをしたらいいのかも、よくわからなかったんです。それのヒントをくれたような気がして、僕としてはありがたかったです」

 細野は小学校の頃から勉強がよく出来た。中学時代は特進クラスにいたこともある。頭が良いから、人に言われた言葉の意味を噛み砕いて考える。腑に落ちた時に、ようやく自分のスイッチが入る。
 
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