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スピロス・ベリニアティス――“グリーク・フリーク”を発掘した男【NBA秘話】

大井成義

2019.09.18

2013年のドラフトでバックスから15位指名された直後のアデトクンボ。当時は18歳であどけなさの残る、痩せっぽちな少年に過ぎなかった(C)Getty Images

 2018-19シーズン、あのミルウォーキー・バックスが、リーグ首位の座を勝ち取った。カリーム・アブドゥル・ジャバーとオスカー・ロバートソンの強力デュオを擁した1973-74シーズン以来、実に45年ぶりの快挙である。しかも、ここ数年リーグを席巻しているウォリアーズを抑えてのリーグ最高勝率。シーズン前にこの結果を予測した識者は、皆無と言っていいだろう。

 多くのNBAファンにとって、バックスは万年Bクラスのイメージが定着しているのではないだろうか。ドアマットとまではいかなくとも、コンスタントに弱く、どちらかといえば地味でパッとしないイメージ。僕を含め、元祖ドリームチームあたりからNBAを見始めた多くの日本のファンは、毎年のように上位争いを演じていた1970年代や1980年代のバックスの勇姿を知らないわけで、この30年間の体たらくを見る限り、そういったイメージを持たれても仕方がないように思える。

 そのバックスがレギュラーシーズンの成績とはいえ、なんとリーグのトップに立ったのである。スモールマーケットのチームが成し遂げたこの快挙を、手放しで称賛しないわけにはいかない。

 今年2月に『フォーブス』が発表した、最新のNBAチーム資産価値ランキングによると、バックスの2019年度の総資産価値は14億ドルで、全30チーム中22位。これでも、ここ数年で劇的に順位を上げているのだ。
『フォーブス』のサイトでは過去10年分のデータしか見ることはできないが、ずっと2億ドル台で推移していた金額が13年に3億ドルを突破、そこからは毎年異常な高騰を続け、わずか6年で5倍近くに達している。この上昇カーブを見る限り、現在の価格で止まるわけがなく、今後も騰がり続けるに違いない。バックスのチーム資産価値は、なぜここまで急激に高まっているのだろうか。

 もちろん、貨幣価値やリーグを取り巻く環境、2018年に新設されたアリーナの集客力など、多岐に渡る要因が考えられるだろうが、最大の要因は明白である。それは、2013年のドラフトでチームに加わったヤニス・アデトクンボの存在と、彼の活躍によりバックスが一躍強豪チームの仲間入りを果たしたこと、その一点に尽きる。海を渡ってきた無名の少年が、30年近く代わり映えのしなかったフランチャイズをわずか数年で劇的に蘇らせたのだ。よく考えてみると、これは物凄いことである。

"グリーク・フリーク"というニックネームが示す通り、アデトクンボのルーツがギリシャにあり、彼の家族が厳しい環境に身を置いてきたことは有名だ。ナイジェリアからより良い生活を求めて不法入国してきた夫婦は4人の男児をもうけ(ナイジェリアに1人残してきている)、家賃を払えず立ち退きをくらったことや、その日食べるものがまったくないことも珍しくなかった。子どもたちは街角に立って、サングラスや時計、バッグを売って家計を支えたりもした。
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ヤニスがギリシャの市民権を手に入れたのはドラフト直前