海外サッカー

新型コロナ禍で欧州サッカーの移籍マーケットはどう変わる?予測困難な夏を読み解く「事象」と「傾向」

片野道郎

2020.05.04

長期の中断が招くのは、マッチデー収入をはじめ経営を成り立たせている「三本柱」からの大幅減収。クラブの強化戦略にも影響が。(C)Getty Images

 新型コロナウイルス禍によって欧州サッカーの未来は一変した。移籍マーケットも大きな影響を受けるのは間違いない。改めて現状を整理し、起こりうる事象を挙げながら市場のトレンドを予測。どう変わるのか、2020年夏を読み解くヒントを提示する。

■収支改善という隠れた目的が従来よりも強く入り込むはず

「今夏の移籍マーケットはどう変わる?」

 移籍報道のエキスパートである、お馴染みジャンルカ・ディ・マルツィオ記者にそう尋ねると、返ってきた答はこうだった。

「それはいい質問だね」

 誰もが疑問に思っている、しかし誰にも答えようがない問いを投げかけられた時の返事として、最もよく使われる常套句である。

 新型コロナウイルス禍によって欧州サッカーが中断されて2か月あまり。シーズン再開の目途すら立っていない今の時点で、シーズンオフの移籍マーケットがどうなるかを想定するのは、誰にとっても不可能だ。
 
 ひとつだけ確かなのは、コロナ禍が起こる前に立てられていた予想は、ほとんど意味を持たなくなったということ。2019-20シーズンが残り3か月の段階で中断したというだけでなく、欧州はもちろん北米、南米、そしてアジアと、世界各地で「自粛」から「ロックダウン」まで感染拡大防止のための施策が打ち出され、経済活動そのものが大きく制約されていることから、「ビジネスとしての欧州サッカー」は経済的にこれまでに例がないほどの大打撃を受けている。

 試合チケットをはじめとする「マッチデー収入」が消えるのはもちろん、TVやネット配信による試合中継がもたらす放映権料などの「ブロードキャスティング収入」、さらにはスポンサー契約料や広告収入、各種グッズ類がもたらすライセンス料などが含まれる「コマーシャル収入」まで、プロサッカークラブの経営を成り立たせている収入の三本柱すべてが大幅な減収を強いられるのだ。

 単なる目安以上の意味を持たないことを承知で最も単純に考えても、シーズンの3分の1にあたる期間(4か月)の活動が停止すれば、本来期待される売上高の3分の1を失う勘定になる。しかも、その4か月の間も、支出の半分以上を占める人件費をはじめ、コストのかなりの部分は同じようにのしかかる。プロサッカークラブの経営は基本的に、「良くて収支トントン」というのが現実なので、ほとんどのクラブが大幅な赤字に陥るのは避けられない。その幅を少しでも小さく抑えるために、いくつかのメガクラブは年俸の一部(2~4か月分)カットや支払い保留といった対応策について選手サイドと話し合い、合意に達している。しかし、それもほとんどの場合は「焼け石に水」以上の重みは持たないだろう。

 赤字経営を立て直すためには、収支を改善する必要がある。そのための手段は2つ。収入を増やすことと支出を減らすことだ。では、その具体的な手段としては何があり得るだろうか。前述したように、チーム活動の全面的な中断によって「収入の三本柱」はすべて大幅な減収となっている。その中にあって、クラブが収入増を期待できる唯一の分野が、ほかでもない移籍マーケットだ。