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大激戦のCL準決勝、インテルとバルセロナの“紙一重の差”「守備における個のクオリティー不足が露呈し、それが直接的な敗因となったのは象徴的」【現地発コラム】

片野道郎

2025.05.09

バルセロナ相手に3失点で済んだのは、バストーニ(中)やアチェルビ(右)らインテル守備陣が、イタリアのチームならではの対人能力や個人戦術を発揮して危険な場面を何度も食い止めたから。(C)Getty Images

バルセロナ相手に3失点で済んだのは、バストーニ(中)やアチェルビ(右)らインテル守備陣が、イタリアのチームならではの対人能力や個人戦術を発揮して危険な場面を何度も食い止めたから。(C)Getty Images

 ハンジ・フリックのバルセロナがここまで見せてきた圧倒的な強さ、胸のすくような破壊力が、どんな時にもラインを高く保ち前に出て攻め続けるという頑ななまでに自らの哲学に忠実な姿勢によって支えられてきたことは、疑いようのない事実だ。リスクを承知で哲学を貫くのはひとつの選択である。バルセロナは哲学を貫くからこそ強く、またそれが「尊い」。ただその「尊さ」は、時に高い代償を強いることでもある。

 付け加えるならば、バルセロナの失点の多くには、「ハイライン裏」という戦術的選択がもたらす構造的な欠陥に加えて、個々のプレーヤーの絶対的な守備力の不足、とりわけ守備の個人戦術の不徹底というもうひとつの要素も絡んでいた。

 バルセロナの守備戦術は、ゲーゲンプレッシングとオフサイドトラップという組織的なメカニズムを基本にしており、ボール奪取は中盤から上の狭いスペースでのデュエル、パスコースに入ってボールをカットするインターセプトが主体となる。しかし一旦裏を取られてしまうと、オープンスペースでの1対1、2対2のデュエルというきわめて困難な状況に陥る可能性が高い。しかし、そこで物を言うことになる対人守備の能力、とりわけデュエルに勝つために身に着けるべき個人戦術のディテールにおいて、バルセロナ守備陣は物足りなさを残している。セットプレーの守備で競り負けるのも、体格的なミスマッチだけが原因ではない。

 例えばクバルシはロングボールをめぐる空中戦でしばしば競り負けたりファウルを取られたりしているが、これは相手の背後に立って先にジャンプし相手にのしかかるように競り合うことで、体格的な劣勢をカバーしようとするため。運が良ければクリアできるが、身体の使い方が上手い相手にはそれを利用してバランスを崩される(第2レグの93分、3ー3のゴールにつながったテュラムとの競り合いはその一例)。

 同じ第2レグ前半、2ー0のPKにつながったラウタロへのタックルも、クリアできなければ確実にPKというハイリスクな賭けであり、伴走して身体を当てて簡単にシュートを打たせない対応(96分に右サイドを抜け出したヤマルに対して、カルロス・アウグストがしたように)を取るべき場面だった。

【動画】CL史に残る大激戦となったインテル対バルセロナ
 
 2試合を通じてドゥムフリースとのマッチアップで劣勢に立たされ、第2レグ終盤に喫した2つのゴールにもネガティブな形で絡んだジェラール・マルティン、同じように3ー3、4ー3のゴールに絡んで地元メディアから「戦犯」扱いを受けているロナルド・アラウホにも、対人守備における個人戦術のミスを指摘することができる。

 これは、DFに対しても守備力以上にビルドアップへの貢献を求めるクラブカルチャー、監督が選手を選ぶ際の評価基準、トレーニングにおける優先順位なども関わってくる部分。戦術的秩序によって守っている限りにおいては十分以上に機能しているが、戦術的秩序が乱れたり壊れたりした時に一気に脆さが表出するというのもまた、自らの哲学に忠実なゆえの「副作用」と言えるかもしれない。双方ともに体力的な疲弊が激しくなり、戦術的秩序が緩くなった試合終盤、そしてカオスの延長戦で、守備における個のクオリティー不足が露呈し、それが直接的な敗因となったのは象徴的だ。

 ここで詳しく掘り下げるには紙幅が足りなくなってしまったが、インテル側の「失点する理由」もまた明確である。それはバルセロナの攻撃力が極めて高いからだ。第1レグ、第2レグとも、3失点で済んで運が良かった、というのが正直なところ。しかし「3失点で済んだ」のは、GKゾマーが連発した驚異的なスーパーセーブに加えて、守備陣がイタリアのチームならではの対人守備力、細部まで徹底された個人戦術の高さによって、危険な場面を何度も未然に食い止めた結果である。

 空中戦の競り合い、こぼれ球を巡る駆け引き、デュエルを挑むか距離を保ってスペースを守るかを決める一瞬の判断、エリア内でのマーク。もし第2レグのアディショナルタイムを、バルセロナではなくインテルが1点リードした状態で迎えたとしたら、あんな形で失点を喫することは決してなかっただろう。クバルシがアレッサンドロ・バストーニで、マルティンがC・アウグストで、アラウホがアチェルビだったら…。

 確かなのはインテルもバルセロナも、自分たちの信じる哲学に基づく、自分たちの戦術スタイルを貫いて戦い、今回は紙一重の差でインテルに軍配が上がったということ。山の頂点を目指すルートがひとつではないように、サッカーにも絶対的な勝利の方程式、勝利に最も近づける唯一の道は存在しない。シモーネ・インザーギもフリックも、ジョゼップ・グアルディオラもカルロ・アンチェロッティも、それぞれが自らの信じる道を進んで頂上を目指すからこそ、サッカーはこれだけ私たちを魅了してやまないのであって、そこにこそ価値とロマンがあるというものだ。5月31日、ミュンヘンでの決勝が今から楽しみである。

文●片野道郎

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