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海外テニス

車いすテニスで全仏OP優勝小田凱人のロードマップを描く“陰の立役者”の思い<SMASH>

内田暁

2023.06.27

第2シードとして全仏オープンに臨んだ小田は、決勝で第1シードのヒューエットに6-1、6-4のストレートで勝利。終始攻めの姿勢を貫き、世界の頂点に立った。(C)Getty images

第2シードとして全仏オープンに臨んだ小田は、決勝で第1シードのヒューエットに6-1、6-4のストレートで勝利。終始攻めの姿勢を貫き、世界の頂点に立った。(C)Getty images

「皆さん、ありがとうございます!今日、テレビで見た方もこれをきっかけに、もっと車いすテニスを見てほしい。このスポーツを、もっともっとビッグにしていきます!」

 青空の下、クレーコートの赤が映えるローランギャロスのセンターコートで、今まさに戴冠したばかりの新王者は、日本語で高らかに宣言した。

 史上最年少のグランドスラム獲得を成し、同時に、史上最年少の世界1位をも記録。

 グランドスラムのデビュー戦は1年前。「最も好きな町」である、パリ開催の全仏オープンだった。その時は準決勝で国枝慎吾に完敗を喫し、最強との距離感を悔しさと共に噛みしめている。

 それから、1年——。

 小田凱人は、自身の名の由来である“凱旋門”がそびえる街で凱歌を挙げ、「二つの夢」を同時に叶えた。

 映画や小説にすれば、「あまりに出来すぎでリアリティに欠ける」と言われそうな物語。

 ただそれは、「事実は小説より奇なり」の一言で片づけられる、偶発的な出来事ではない。

 本人の資質と努力があってこそ実現可能な夢だったのは、大前提。そのうえで、小田凱人という稀有なカリスマをスターにすべく、周到にシナリオを描いた“裏方”たちがいたのも、また事実だ。
 
「いつか世界1位にはなると思っていましたが、スピード感は予想のはるか上でした」

 小田の全仏オープン優勝の数時間後。会場のカフェテリアで、感慨と安堵の混じった笑みをこぼすのは、広告代理店に勤務する軍司和久さんだ。車いすを含めた若手テニス選手支援の情報交換や人材派遣を行なう“トップアスリートグループ”と連携し、小田のマネージメントを行なってきた陰の立役者である。

 スポーツビジネスの世界に造詣の深い軍司さんが、小田と出会ったのは3年前。9歳時に骨肉腫を患い、車いすテニスに打ち込む当時14歳の少年が宿す、「世界1位になる。同じような境遇にいる子どもたちのヒーローになる」との夢に、純粋に共鳴した。その背景にはもしかしたら、軍司さん自身も学生時代に癌を患い、命の期限を告げられた中で目にしたスポーツに「救われた」経験があるかもしれない。いずれにしてもその頃から、軍司さんは小田の夢実現への“ロードマップ”を描きはじめた。
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