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【名馬列伝】ダービーを勝つために生まれた”幸福の使者”。ウイニングチケットと好敵手たちの激闘録

三好達彦

2021.07.10

 しかし42歳となり、残りの騎手生活もそう長くはないと感じる年齢になって、柴田が「ダービーを勝ったら騎手をやめてもいい」と発言したという記事が話題になった(のちに本人に確かめたところ、「『騎手をやめてもいいぐらいの気持ちだ』と言っただけだよ」と苦笑していた)。そんな中で出会ったのが、若駒の頃から素質の高さを示していたウイニングチケットだったのである。

 69年に馬主資格を得たオーナーの太田美實を含め、ウイニングチケットを取り巻く関係者のなかに、日本ダービーの優勝を経験したことがあるものは誰もいなかった。

 2歳時に4戦3勝と、強靭な末脚で好成績を収めて”クラシック候補”の一角に名を連ねたウイニングチケットは、3歳の初戦として臨んだ弥生賞を圧勝。本番に向けて最高の形でスタートを切った。
 
 この年のクラシックはウイニングチケットを一番手に、岡部幸雄が手綱をとるビワハヤヒデ、昇竜の勢いで頂点へと向かっていた武豊が乗るナリタタイシンで形成する”三強”体制と見られていた。馬の力はもちろん、トップジョッキー3名による最高の技術によるせめぎ合いにも注目が集まった。

 一冠目の皐月賞は、先行したビワハヤヒデを目がけてウイニングチケットが中団の後ろめから一気にまくって出て迫ろうとするところを、最後方で構えていたナリタタイシンが爆発的な末脚を繰り出して急襲。ビワハヤヒデをクビ差競り落として優勝を果たし、終いの伸びを欠いたウイニングチケットはナリタタイシンに約2馬身の差を付けられて4着に敗れた。

 そして、日本ダービーが行なわれる1週前(当週の頭)に、柴田から記者たちへ一件の申し入れが成された。それは、「今週だけは取材を勘弁してほしい」というものだった。

 普段はマスコミの取材に人並み外れて真摯な対応をする柴田だけに(いまならきっと「神対応」と呼ばれるだろう)、「マサトさんの言うことなら」と記者たちはその申し入れを受け入れ、また柴田が日本ダービーに賭ける思いの強さをあらためて感じさせられた。
 

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