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【名馬列伝】ダービーを勝つために生まれた”幸福の使者”。ウイニングチケットと好敵手たちの激闘録

三好達彦

2021.07.10

 1993年5月30日、東京競馬場。日本ダービーをウイニングチケットは1番人気で迎えた。馬体はしっとりと濡れたような艶で黒く輝き、闘志を秘めながらパドックをしなやかに、また力強く歩く姿は最高の状態に映った。

 2番人気のビワハヤヒデも、3番人気の皐月賞馬ナリタタイシンも遜色ない出来の良さだった。

 ゲートが開くと、ビワハヤヒデが先団に付け、ウイニングチケットは中団の後ろ目をキープ。追い込みにかけるナリタタイシンはほぼ最後方から進んだ。予想どおりの並びである。

 動きが出たのは第3コーナ過ぎ、大けやきのあたり。ビワハヤヒデが位置を押し上げると、ウイニングチケットもインコースからじわじわと差を詰めて直線へ向く。

 その時である。ウイニングチケットの進路において、モーセの目前で大海が割れた逸話のように、馬群がガラリと開いた。

 その瞬間を見逃さず、柴田はウイニングチケットを追い出して、一気に先頭を奪った。それでもまだ残りは200mほどある。内ではビワハヤヒデが差し返す様子を見せると、後方から大外を通ってナリタタイシンも追い込んでくる。
 
 しかし、鬼神のごとく激しく追う柴田の執念が乗り移ったかのようなウイニングチケットは、最後まで決して先頭を譲ることなく、ビワハヤヒデに半馬身の差を付けて栄光のゴールへと飛び込んだ。

 ウイニングチケットが先頭に躍り出るや、記者席があるゴンドラからは、机を叩きながら「マサトー!」と叫ぶ声があちこちで響いていたといい、スタンドに詰めかけたファンは引き揚げてくる彼らを「マサト」コールで出迎えた。

 19度目の挑戦にしてようやく日本ダービーのタイトルを手に入れ、海外での騎乗経験も豊富な柴田が、ファンの前で行なわれたインタビューで「誰にこの勝利を伝えたいですか?」という問いに対して発した言葉は、名台詞としていまも語り継がれている。

「世界のホースマンに『60回のダービーを勝った柴田です』と伝えたいです」
 

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