IT(情報技術)の進化により、野球のデータ分析も新しいフェーズに突入している。スピードガンによる球速表示から、いまや次世代の計測機器によりボールの回転数や変化量までもが数値化できる時代になった。また同時に、その数値を野球にフィードバックできる人材も必要とされている。
慶大野球部で助監督を務めた竹内大助は、そうした時代の流れを敏感に受け止め、前任者が起こしたムーブメントを、チームのカルチャーに昇華させようとしてきた。
第4話では、竹内がその起ち上げに尽力したアナリスト部門について触れていこう。
―――◆―――◆―――
竹内が助監督在任中、意欲的に取り組んだ仕事の一つに、データ分析部門の確立と進化がある。
社会人野球では、「アナリスト」と呼ばれるデータを扱う専門職を置いているチームが多い。所属するトヨタ自動車にも当然のようにあった。竹内も現役時代にいろいろ学ぶことが多かったという。
その経験から、「こういう野球へのアプローチの仕方が、今後は必要になってくる」と、選手たちに伝えていきたかった。
幸い、慶大にはデータ活用の土壌があった。
前任の林卓史助監督(現・朝日大准教授)が、ボールの回転や伸び、変化の特徴といった計測データに基づく投球分析のスペシャリストで、現在もその分野に関する研究論文の執筆を行っている。
林は在任中、「Rapsodo(ラプソード)」という、投球や打球のボールの軌跡や角度、回転といったものを測定出来る機器(携帯式弾道測定器)をチームに導入した。このラプソードによって、投手はこれまでのスピードガンによる球速に加え、投球速度やボールの回転数、変化球の変化量なども数値化できるようになった。
竹内と同じように主に投手部門を任されていた林は、そこで計測された各投手の数値を一覧表にし、合宿所やグラウンドといった選手の目に付くところに貼り出した。それは、これまで「キレがいい」とか「伸びている」といった感覚的な表現で伝えていた言葉の数字的な裏付けであり、いわば“見える化”だった。
選手たちは自分の投げているボールの特徴、傾向、そこから導き出される長所、短所といったエピデンスが明確に出てくるわけで、おのずと練習メニューはそれに基づいたものになっていく。
竹内が助監督に就任した2019年。秋のシーズンから東京六大学が神宮球場に設置された高性能弾道測定器「トラックマン」の活用を開始。リーグ戦における各チーム、各選手の測定データを、リアルタイムで、パソコン上の作業により共有できるようになった。
これを機に竹内は、林が種を蒔いた“見える化”から、もう一歩進めた形でのデータ活用に着手していく。
林助監督時代のデータ活用術は、それ自体は非常に革新的ではあったが、組織として考えると盲点もあった。その分析のノウハウは林の持つ知識に依拠するところが大きい。つまり「林という“職人”にしか出来ない」という、いわば属人的なものだった。
竹内はそれを一過性のブームに終わらせず、担当者が変わっても継続できる、慶大野球部のカルチャーにしていきたかった。
バトンを受けた竹内が、自分の知識で、林と同じ属人的なスタイルで着手しても、竹内がいる間はそれでやっていけるが、次の助監督がどんな思考、野球観を持った人物かわからないうえに、そもそも助監督というポスト自体が今後も常にあるとは限らない。それではせっかく蒔いた種が枯れてしまう。
一方で、部員というのは毎年多少の増減はあっても、入れ替わりながら常にある一定数が在籍している。それなら部員たちで林がやっていたようなデータ分析、データ活用を担っていくことが出来れば、これはチームにとって大きな財産になるのではないか、と考えたのがきっかけだった。
そして、竹内のなかに、もうひとつフレームを大きくしたアイデアが湧き上がっていた。
「今はSNSが活発に使われる時代で、野球に関しても、専門家ではない人たちが自由に発信をしています。そういう人材が、大学全体を探せば、きっといるはずだと思ったんです。必ずしも野球の経験者でなくてもいい。
何か特別なITスキルを持っていたり、この分野に強い思い入れがあったりという人が、たくさんいるはず。だったら、部員内で選出するよりも、外から探してしまったほうが、より適した人材が見つかるんじゃないか、と」
慶大野球部で助監督を務めた竹内大助は、そうした時代の流れを敏感に受け止め、前任者が起こしたムーブメントを、チームのカルチャーに昇華させようとしてきた。
第4話では、竹内がその起ち上げに尽力したアナリスト部門について触れていこう。
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竹内が助監督在任中、意欲的に取り組んだ仕事の一つに、データ分析部門の確立と進化がある。
社会人野球では、「アナリスト」と呼ばれるデータを扱う専門職を置いているチームが多い。所属するトヨタ自動車にも当然のようにあった。竹内も現役時代にいろいろ学ぶことが多かったという。
その経験から、「こういう野球へのアプローチの仕方が、今後は必要になってくる」と、選手たちに伝えていきたかった。
幸い、慶大にはデータ活用の土壌があった。
前任の林卓史助監督(現・朝日大准教授)が、ボールの回転や伸び、変化の特徴といった計測データに基づく投球分析のスペシャリストで、現在もその分野に関する研究論文の執筆を行っている。
林は在任中、「Rapsodo(ラプソード)」という、投球や打球のボールの軌跡や角度、回転といったものを測定出来る機器(携帯式弾道測定器)をチームに導入した。このラプソードによって、投手はこれまでのスピードガンによる球速に加え、投球速度やボールの回転数、変化球の変化量なども数値化できるようになった。
竹内と同じように主に投手部門を任されていた林は、そこで計測された各投手の数値を一覧表にし、合宿所やグラウンドといった選手の目に付くところに貼り出した。それは、これまで「キレがいい」とか「伸びている」といった感覚的な表現で伝えていた言葉の数字的な裏付けであり、いわば“見える化”だった。
選手たちは自分の投げているボールの特徴、傾向、そこから導き出される長所、短所といったエピデンスが明確に出てくるわけで、おのずと練習メニューはそれに基づいたものになっていく。
竹内が助監督に就任した2019年。秋のシーズンから東京六大学が神宮球場に設置された高性能弾道測定器「トラックマン」の活用を開始。リーグ戦における各チーム、各選手の測定データを、リアルタイムで、パソコン上の作業により共有できるようになった。
これを機に竹内は、林が種を蒔いた“見える化”から、もう一歩進めた形でのデータ活用に着手していく。
林助監督時代のデータ活用術は、それ自体は非常に革新的ではあったが、組織として考えると盲点もあった。その分析のノウハウは林の持つ知識に依拠するところが大きい。つまり「林という“職人”にしか出来ない」という、いわば属人的なものだった。
竹内はそれを一過性のブームに終わらせず、担当者が変わっても継続できる、慶大野球部のカルチャーにしていきたかった。
バトンを受けた竹内が、自分の知識で、林と同じ属人的なスタイルで着手しても、竹内がいる間はそれでやっていけるが、次の助監督がどんな思考、野球観を持った人物かわからないうえに、そもそも助監督というポスト自体が今後も常にあるとは限らない。それではせっかく蒔いた種が枯れてしまう。
一方で、部員というのは毎年多少の増減はあっても、入れ替わりながら常にある一定数が在籍している。それなら部員たちで林がやっていたようなデータ分析、データ活用を担っていくことが出来れば、これはチームにとって大きな財産になるのではないか、と考えたのがきっかけだった。
そして、竹内のなかに、もうひとつフレームを大きくしたアイデアが湧き上がっていた。
「今はSNSが活発に使われる時代で、野球に関しても、専門家ではない人たちが自由に発信をしています。そういう人材が、大学全体を探せば、きっといるはずだと思ったんです。必ずしも野球の経験者でなくてもいい。
何か特別なITスキルを持っていたり、この分野に強い思い入れがあったりという人が、たくさんいるはず。だったら、部員内で選出するよりも、外から探してしまったほうが、より適した人材が見つかるんじゃないか、と」