つまり村上は、打球に上向きの角度がつくことが特別多いわけではないが、それをスタンドインさせる確率は極めて高いスラッガーなのだ。あらためて村上の優れたパワーを感じさせるデータである。
しかし、これらの成績はあくまでもNPBでのもの。国際舞台、特にレベルの高いメジャーリーガー相手に、その能力がそのまま通用するわけではないだろう。村上がWBCで活躍する上でカギとなる要素は一体何だろうか。
最も重要なのはスピードボールへの対応だ。近年はNPBでも投手のレベルが向上。ストレートの平均球速は145キロを超えるほどにまで上昇している。しかし、MLBはさらにその上を行く。昨季のストレートの平均球速は150キロをオーバー。強豪国相手の対戦では、NPBより一段階上の出力を誇る投手が次から次へと出てくるはずだ。
では、村上のスピードボールへの対応力はどうだろうか。ストレートの球速帯別成績をまとめた表2を見ると、初めて一軍でフルシーズンを過ごした2019年、村上は140キロ未満のストレートにOPS(出塁率+長打率)1.156と好成績を残した。しかし、そこから球速帯が上がるごとに成績は低下。150キロ以上のストレートにはOPS.293とかなり苦しんでいた。
表2 村上のストレート球速帯別OPS
年度 140キロ未満 140キロ台 150キロ以上
2019 1.156 .923 .293
2020 1.272 1.121 .875
2021 1.433 .895 .886
2022 1.065 1.222 1.264
※OPS=出塁率+長打率
その後、村上は速いボールへの対応力を年々高めていく。20年、21年と150キロ以上のストレートにOPS.875、.886と好成績を残すと、昨季は1.264とさらに一段階上の数字を残した。昨季の数字は他の球速帯よりむしろ優れており、メジャーリーガー相手の速球にも十分対応できるという期待感を抱かせる。
ただ、そんな中でも懸念点はある。1つは、空振り率の高さ。
昨季の村上は確かに速いストレートに優れたOPSを残した。しかし、150キロ以上のストレートへの空振り率(空振り÷スウィング)を見ると、35.5%(表3)とかなり高い。また、これは例年とそれほど変わりがない数字でもある。昨季のOPS向上はインプレー打球が多く安打になったことが大きな要因で、スピードボールへの不安要素が消えたわけではない。
表3 村上のストレート球速帯別空振り率
2019 35.7%
2020 30.0%
2021 46.2%
2022 35.5%
※空振り率=空振り÷スウィング
また、スピードボールがどこに投げ込まれるかも問題だ。近年、MLBでは速い球を高めに投げ込むトレンドが生まれている。データ分析により、ストレートは高めの方が空振りを奪いやすいことが分かったためだ。MLBは年々ストレートを高めに投げ込む割合が高まっている真っ最中である(表4)。
表4 投じられたストレート高め割合(MLB)
2015 40.1%
2016 40.0%
2017 43.9%
2018 46.1%
2019 47.9%
2020 48.9%
2021 49.4%
2022 52.5%
一方、NPBではストレートも変化球もまだ基本は低めが中心で、MLBのトレンドは主流にはなっていない。そして、村上が攻略してきたストレートも、多くは真ん中から低めのコースだ。実際、昨季の56本塁打のうち、150キロ以上の高めストレートを打ったものは1本もなかった。
意図的に高めに剛速球を投げ込まれた時に、果たして村上はどう反応するのか。侍ジャパンの優勝はもちろんのこと、近い将来のメジャー挑戦をも大きく左右するポイントになるだろう。
文●DELTA(@Deltagraphs)
【著者プロフィール】
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』の運営、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。
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しかし、これらの成績はあくまでもNPBでのもの。国際舞台、特にレベルの高いメジャーリーガー相手に、その能力がそのまま通用するわけではないだろう。村上がWBCで活躍する上でカギとなる要素は一体何だろうか。
最も重要なのはスピードボールへの対応だ。近年はNPBでも投手のレベルが向上。ストレートの平均球速は145キロを超えるほどにまで上昇している。しかし、MLBはさらにその上を行く。昨季のストレートの平均球速は150キロをオーバー。強豪国相手の対戦では、NPBより一段階上の出力を誇る投手が次から次へと出てくるはずだ。
では、村上のスピードボールへの対応力はどうだろうか。ストレートの球速帯別成績をまとめた表2を見ると、初めて一軍でフルシーズンを過ごした2019年、村上は140キロ未満のストレートにOPS(出塁率+長打率)1.156と好成績を残した。しかし、そこから球速帯が上がるごとに成績は低下。150キロ以上のストレートにはOPS.293とかなり苦しんでいた。
表2 村上のストレート球速帯別OPS
年度 140キロ未満 140キロ台 150キロ以上
2019 1.156 .923 .293
2020 1.272 1.121 .875
2021 1.433 .895 .886
2022 1.065 1.222 1.264
※OPS=出塁率+長打率
その後、村上は速いボールへの対応力を年々高めていく。20年、21年と150キロ以上のストレートにOPS.875、.886と好成績を残すと、昨季は1.264とさらに一段階上の数字を残した。昨季の数字は他の球速帯よりむしろ優れており、メジャーリーガー相手の速球にも十分対応できるという期待感を抱かせる。
ただ、そんな中でも懸念点はある。1つは、空振り率の高さ。
昨季の村上は確かに速いストレートに優れたOPSを残した。しかし、150キロ以上のストレートへの空振り率(空振り÷スウィング)を見ると、35.5%(表3)とかなり高い。また、これは例年とそれほど変わりがない数字でもある。昨季のOPS向上はインプレー打球が多く安打になったことが大きな要因で、スピードボールへの不安要素が消えたわけではない。
表3 村上のストレート球速帯別空振り率
2019 35.7%
2020 30.0%
2021 46.2%
2022 35.5%
※空振り率=空振り÷スウィング
また、スピードボールがどこに投げ込まれるかも問題だ。近年、MLBでは速い球を高めに投げ込むトレンドが生まれている。データ分析により、ストレートは高めの方が空振りを奪いやすいことが分かったためだ。MLBは年々ストレートを高めに投げ込む割合が高まっている真っ最中である(表4)。
表4 投じられたストレート高め割合(MLB)
2015 40.1%
2016 40.0%
2017 43.9%
2018 46.1%
2019 47.9%
2020 48.9%
2021 49.4%
2022 52.5%
一方、NPBではストレートも変化球もまだ基本は低めが中心で、MLBのトレンドは主流にはなっていない。そして、村上が攻略してきたストレートも、多くは真ん中から低めのコースだ。実際、昨季の56本塁打のうち、150キロ以上の高めストレートを打ったものは1本もなかった。
意図的に高めに剛速球を投げ込まれた時に、果たして村上はどう反応するのか。侍ジャパンの優勝はもちろんのこと、近い将来のメジャー挑戦をも大きく左右するポイントになるだろう。
文●DELTA(@Deltagraphs)
【著者プロフィール】
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』の運営、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。
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