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大学野球

日本一に輝いた青学大の注目スラッガー佐々木泰、“衝撃のデビュー”後に待っていた苦悩と復活への手応え【神宮を沸かせる男たち②】

矢崎良一

2023.06.12

 この秋のシーズン、青学大は開幕から順調に勝点を重ねて首位に立ち、優勝まであと1勝として最終カードの駒大戦を迎えた。試合は青学大が1点をリードし、9回裏に。一死一塁。あと2つのアウトで優勝だった。

 ここで、サードを守る佐々木の前に打球が飛ぶ。緩いゴロ。球場にいる誰もが5-4-3のダブルプレーで試合終了と考えた。ところがこの打球を佐々木がグラブで弾いてしまう。足の運びは悪くなく、決して軽率でも消極的なプレーでもなかった。ただ、左打者のバットの先っぽに当たって回転の掛かった打球で、正面に入ったつもりが、身体が流れてしまった。慌てて拾って処理したがアウトが取れず、一、二塁とピンチを広げる。ここから投手が踏ん張れず逆転サヨナラ負け。2位に着けていた国学院大に逆転優勝を許すことになった。まさに痛恨のエラーだった。
 
 ダブルプレーで終わっていたら優勝。運命を分けたものは何だったのか? 「最後の場面で心の弱さが出てしまいました」と自分を責めた。「小中高と野球をしてきて、大事な場面でミスをしたことなんて一度もなかったので……」と言う。名前の「泰」は、両親が「天下泰平」から文字を取ったもの。名前の通り、本来はポジティブな性格だ。

「今思えば、2年生の時には1年間ずっとネガティブな感情でした。最初は『自分が打って』という気持ちだったのが、だんだん『打たなければ』になっていきました。1年生の時は、1打席でも多く回ってきてほしかったのが、2年生の時は打席に行くのが重かった。プレッシャーを感じすぎて、どんどん思うようなプレーができなくなって、これじゃあ結果なんて出るわけがないですよね」

 佐々木は「野球の怖さを思い知らされた1年」と言う。1年生の頃は、チームの一員ではあっても、先輩たちが「お前は好きなようにやれ」とお膳立てしてくれていた。だが、たとえ下級生であっても、レギュラーとして試合に出ていれば、試合に出ていないチームメイト、先輩への責任がある。それに気付いた時、成長と同時に、また違うプレッシャーが生まれる。安藤監督も、「まだ2年生で、そこまでチームを背負わせてしまっていいのかという葛藤が私にもありました」と振り返る、師弟ともに苦しい一年間だった。

 冬場の練習で自分のバッティングを見直した時に、「自分の持ち味は強く振ること」と原点に回帰した。打撃フォームも、高校時代の少し重心を落とした構えに戻している。ウェートトレーニングで体重を5キロ増量した。技術的に取り組んでいるのは下半身主導のスイング。

「それが出来たら、右にも左にもバックスクリーンにもホームランが打てるようになるので。今までリーグ戦で打ったホームランは全部左(レフト方向)。右に打ちたいというよりも、結果的に右に打てたらいいなというイメージです。練習ではやれています。試合でやれるかが勝負ですね」

 このリーグ戦からクリーンアップではなく、「2番・サード」に起用されている。力のある打者が揃った今年の青学大で、長打力のある佐々木が2番に入ることで、打線はさらに厚みを増す。また、「オーバースイングとフルスイングは違うよな」という安藤監督からのメッセージでもあった。

 チームは開幕戦こそ駒大にサヨナラ負けしたが、2戦目から破竹の10連勝。昨秋の悔しさを晴らすように、圧倒的な強さで完全優勝を成し遂げた。佐々木は開幕カードの駒大戦、優勝を決めた国学院大戦で、いずれもレフトへのホームラン。シーズン2本塁打で、打率.293。まだまだ完全復調とはいえないが、チームの優勝とも相まって、精神的な安定はあった。
 
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