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「若くして死に、不滅の存在になりたい」“ジョーダン超え”に執念を燃やしたコビー・ブライアントの知られざる逸話〈DUNKSHOOT〉

大井成義

2021.01.29

コビーは子どもの頃からの憧れであり、目標だった“ジョーダン超え”に、キャリアを通して挑み続けた。(C)Getty Images

 コビー・ブライアントが子どもの頃から憧れ、心の底から超えたいと切望していた存在がマイケル・ジョーダンだった。若き日のコビーは「ジョーダンよりベターなキャリアを過ごし、若くして死に、不滅の存在になりたい」とまで語っていたという。今回は、"ジョーダン超え"に懸けるコビーの尋常ならざる想いを表わすエピソードを紹介する。

■涙のスピーチで明らかになったコビーと"神"の意外な関係性

 2020年2月24日、ロサンゼルスのステイプルズ・センターで執り行なわれたコビー・ブライアントの追悼式で、マイケル・ジョーダンが涙ながらに語った11分間の感動的なスピーチは、まったくもって特別なものだった。

 頬を伝う涙が乾くことはなく、ところどころユーモアを交え、時には爆笑を誘い、さらにはかつて見せたことがないほど感情を露わにして、ジョーダンはコビーとの思い出や手向けの話を語った。締めの言葉は、「コビーが死んだ時、私の一部も死んだ」、「私は今日この日から約束する。私には弟がいて、私にできるすべての方法で手助けしようとした、その思い出とともに生きていくことを――」。そう語るジョーダンの姿に、誰もが心を震わされたはずだ。
 
 あの日ジョーダンの登壇を予想した人は、果たしてどれだけいただろうか。ジョーダンがスピーチを引き受け、笑いと涙にあふれる魂のこもった言葉を披露してくれたことは、天国のコビーや遺族たちはもちろん、いまだ悲しみの癒えない世界中のNBAファンにとっても、これ以上ないほど大きな意味を持っていたと思う。

 スピーチの中で、ジョーダンはコビーを繰り返し「まるでリトル・ブラザー(弟)のようだった」と語り、そこには本当の身内に抱く「ったく仕方ねえなあ」といった諦めに似たような気持ちとともに、その何倍もの愛情が詰まっていた。これまでジョーダンがコビーを"リトル・ブラザー"と称したことは何度もあったが、ここまで深いレベルで感情を吐露したのは、たぶん今回が初めてだろう。

 一方、生前コビーがジョーダンとの関係性について言及したことはそれなりの回数あったものの、なんとなく核心部には触れず本音を言わないというか、どこかオブラートに包んでいるような感じだった。"神様"と称される史上最高のバスケットボール選手と、"ネクスト・ジョーダン"と呼ばれた15歳年下の、才能と努力の塊。そんな2人のある種特別かつ特殊な関係性は、そう簡単に本音で語れるものではなかったのかもしれない。